ん》の畸形児《かたはもの》であつたのだ。現にここにかうして向合つて居る女がそれだ。俺がそれだ。
 けれども、もう我等は肉を超越しなければならない。本能の眼を開かなければならない。余は汝を愛す、俺はかう云はなければならないのか。或は亦、余は汝と別れる、俺はかう云はなければならないのか。実際を云へば俺はまだこの間題を真面目に考へたことがないのである。今は正しくその時が来た。
 男は屹となつて何かを云はうとして、女の顔を見た。女はもうけろりとしてゐる。そしてだらしなくくづした膝から肩へかけて、人工的に作上げた曲線の気味悪い美くしさだけが目についた。
 張り切つた男の心はその一瞬で又ゆるんでしまつた。
 丁度此時、松村の奥座敷には、桑野が若い奥さんに向つて、白川と相談した要領を純化して、噛んでくくめる様に説ききかせて居る時であつた。
[#地から1字上げ](「大国民」 大正二・一〇/『遺稿』所収)



底本:「定本 平出修集」春秋社
   1965(昭和40)年6月15日発行
※底本は、著者によるルビをカタカナで、編者によるルビをひらがなで表示してありますが、このファイルでは、編者によるルビは
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