仕事のすべてに対して、彼はある程度の理解と意見とを蓄ヘて、事実の中核《ちゆうかく》に触れた注意を、男に云ひ出すことも屡あつた。
 いろんな処でいろんな女に出くはして、手を出して見たのも数は少くないが、どの女もどの女も、男にとつては座興のやうな気持でしかつきあへなかつた。大阪から来て新橋で名びろめしたみな子と云ふ女などは、大分に長い間相手となつては居たが、気立がおとなしいとか、偽《うそ》が少《す》くないとか、親切なとか、云はば普通の女の普通の取なしの外に何《なに》が男をひきつけるものがあつたであらうか。取出して云ふほどのことはもとよりなかつた。つまり女は女だけのことしか考へない。惚れた男に遇へば嬉しい。浮気をされれば泣く。面白さうに笑つて、男の心をたぐりよせて、明日と云ふことなしに眠つてしまふ。寝巻姿の女だけしか目に映らない。それがあや子になると、あそび半分真面目半分で語り続ける夜も多かつた。会ふ人も会ふ人も、男から見ればみんな自己本位からの利害の関係者である。相手が自己本位であると共に、松村彼自らも亦自己本位である。話の合間合間《あひまあひま》にすら、少しの油断も出来ない。杯盤の間に於
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