りして居るのに気がついてくる、矢も楯もたまらないやうになつて、彼は男の心の逃亡を引つつかまへようとして、あべこべに男から引外《ひきはづ》され、縁はさう云ふときに屹度きれる。きれた縁のつながるときには、二人の親しさがもう一倍増してゐる。おなじやうな事件をくりかへして居るうちに、女は段段と男に引ずられて行くやうになり、男の方でも段段此女と離れることが出来ないやうにもなつて行く、長い月日のうちに、男が交際をして居る多くの客人《きやくじん》からも、怪しまれることのない、公然の間柄ともなり、秘密話《ないしよばなし》の一室にも、彼だけは遠慮をすることもいらないものとして、出入《しゆつにふ》を許されるやうにもなつた。男が誰と会つて、何を話合つて、どんなことを計劃して居るのであるか、聞くともなしに聞いて居た其場の模様から、彼は段段男の仕事《しごと》に興味をもつやうになつた。
「旦那、お気をつけなさいよ。ゝゝさんはうす気味のわるい人ねえ。一言《ひとこと》云つちや旦那の御機嫌をとつて居るんですもの。」
 こんなことを云つて、彼は目付役をつとめることを自分の役目だと思つて居るらしい処も見えた。いつかしら男の
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