ても暗闘と暗闘とがひつきりなしにつづく。彼はどんなときにでも彼自らの姿を見破られないやうに、慎み深い用意を忘れることが出来ない。こんな苦しい、緊張《はりき》つた、いらだたしい生活が、幾日も幾日もつづいたとき、男は唸くやうになつて、女の膝に身をなげかけた。心の友を求めることに気がつかず、こんな女づれを相手に僅かな慰安を捜求《さがしもと》めてあるく男の惨《みじ》めさは、此意味に於て哀れなものと云はなければならない。
今夜も松村はやはり疲労困憊の人であつた。朝、白川と会つて十時に築地のゝゝ倶楽部で東洋演芸の重役と長時間の交渉を続け、昼飯もせずに二時頃までは陰忍と焦躁の為に神経を張りつめて居た。それから皮革会社創立の計画、夜は二座敷《ふたざしき》の客をつとめてやつと放たれた身体《からだ》となつたのである。帰らなければならぬ時間となつて居たのではあるが、口には帰ると云つても、さて立ち上らうともしなかつた。
「此頃は白川さんとはちよつともお遊びにならないんですね。」女は吸付けた煙管を男にすすめた。
「うむ、せはしいからねえ。」
「でも、あちらは貴方の一番のお友達ぢやありませんか。」
「さうさねえ
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