を当《あて》にしていいかどうかといふ狐疑心と、人を見くびる彼の高慢心とが、茲まで話が急転して来ようとは思がけない処であつたからである。否思ひがけない処でないにしても、彼は十分なる位置に自分を置く――即ち先づ白川をして金を作らせる、其上に自分が働き出すことが自分の十分なる位置を占めることであると打算する勝手な考が、かなり彼の方針の上に活躍して居た。これは彼には常套手段で、時には無貴任な仕打であるとも見えるのである。
「今日すぐ取引をすると云ふのかい。」
 松村は白川にかう云つた。
「今日やつて貰はなくつちや。俺の方でも本人があるのだし、金の性質は君の知つてる通りの訳なんだからねえ。」
 これで数ヶ月の苦心が成就の果を結び、白川の肩の重荷が取り去られると思つて、外に何も蟠《わだかま》りのないことに安心して来たのであるから、妙に渋り勝な松村の詞を聞いてはあせり気味にならざるを得なかつたのである。
「君あ、まだ埋立工事を見ないんだらう。」松村は落着顔に話を転じた。
「まだ見ないんだ。見なくつても構はんぢやないか。」
「実はねえ。」松村は真面目になつて、声をひそめた。
「奥田にもまだ見せてないん
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