にもおかせぎなさらなけりやならんと云ふ方ぢやなし、全く因果だあねえ……。あら、ごめんなさい。」
「いやよ、姐さん。あたしが奥さんと云ふんぢやなし。」
「でもさうぢやないでせう。お前さんだけは別ものよ。」
「それはねえ。かうして長くおひいきになつてゐればねえ。もう四年になるんですもの。五月四日が始めての日なの。でね、今年は四年目の記念会を開くんですつて、なんでも旦那が呼んでいらつした芸者衆をすつかり集めちやつて……。あたしに白襟紋付を着ろとおつしやるの……。」
「なんだね、あやちやん。大分手ばなしだわ。」
「あら。」
二人はくづれるやうに笑つた。
「景気がいいぢやないか。」
松村は寒さうに肩をすぼめて入《はひ》つて来た、
「ねえ、旦那。姐さんに記念会のお話をしてた処なんですよ。」
「よせ、そんなつまらんことを。」
「つまらなかあないわね、姐さん。」
「ええ、まことにごちそうさま。」
お定はまぜつかへしを云ひながら、そそくさと出て行つた。松村は火鉢の前にしやがんで、貧乏ゆすりをして居た。
「みつともないことよ、およしなさい。」
女は男の膝をぐんとついた。男は思はず尻持をついた、そし
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