ね。そしていくら遅くなつてもかまはず、優しく侍《かしづ》くんだ。そして愛情を起させるやうに女の方からしむけて行けば、柔よく剛を制すの道理だからね。松村君だつて、義理もあり、憎い細君でも無いのだから、どうにか調子をとつて行くだらう、と私は思ふのだ。何しろ夫婦の間で或事の隔てがあると云ふことが一番の禁物なんだからねえ。」
「まあさうする外はありますまいね。さう云つて妾問題は破壊させませう。」
「無論だよ。一体あや子つてやつは、なかなかの腕ききだつてぢやないか。」
「大将もすかさない方だけれど、この間題だけは。」
「処でどうもをかしいよ、此話は。これは二人共謀だね、きつと。」
「かも知れません。」
「さうとすればいよいよもつて破壊だ。」
「本統に困つちまふ。」
桑野は一寸と頭を掻いて立ち上つた。下の事務室では、もう社員が出揃つたらしく、入りまじつたものの音が、二階の静かな室まで響を伝へて来た。
漸く客を送り出してぐつたりと床の間の前の脇息に肘をもたせて居た松村は、電話だと云ふのでまた疲れたからだを玄関傍の電話室へ運んだ。
取りちらされた杯盤はきれいに片付けられて、桐の胴丸の火鉢も巻煙
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