来ても、貴方が本統にやる気がないのなら、これは駄目なことなんだ。これまでになつて此話が破れれば、私は金主に対して済まないことにもなるが、それはまだいいとして、私の本人に申訳が無いし、相手方の代理人の大草さんにも顔向けが出来なくなる。私は全く切腹道具なんです。しかし貴方を義理責にして自分だけは助かりたいとは思つて居ません。兎に角本統にやる気なんだか、どう云ふんだか、掛引のない処を云つて下さい。」
かう云つて白川は自分の本意でない方向へ話が外《そ》れて行つて、松村を正面から責めつけて行かねばならなくなつたことを、口惜しいことに思つた。
「それはやる。」
「本統ですね。」
「さうだ。本統だ。」
この時吐いた松村の呼吸は腹の底から出るやうに感じた。之が俺の本心である、どこまでもやると覚悟をしてしまへば、手形の形式はどうでもいい。もともとこの手形は外へ廻さず、取立には交換にもかけないと云ふ約束なんだから、会社の名誉が外から損はれる訳はない。奥田の裏書と云つても、もし俺が親身になつて、どうか頼むとさへ云へば、反感も除《と》れるであらうし、承諾を得ることも必ず出来得るんだ。白川をここまで誘《お》
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