相談を持つて来た積りではないんで、どうです俺の技倆はと云つて意張つても見たり、甘くやつてくれたと貴方から喜んで貰へると思つて、私はこの金を持つて来たんだ。」
 云ひ切つたとき脈管内に湧きたつ血が頭にのぼつて行くのであらう。身うちがぞつとするやうに彼は感じた。
「しかしねえ、私は最初から事件の仲裁は貴方に頼まない。これ丈の資金があるが、何とか利殖の方法があるまいかつて君に相談したんでせう。その時私が只突然に五万円の資金があると云つた処で、君は信用しまい。それを説明する為に訴訟の関係を話した。つまり沿革を説明したんだね。君は此金を受けいれて、私に約束の報酬さへくれれば、その報酬で、私がなにをしようとも、一切自由なんだ、訴訟の解決に使はうが地所を買はうが、相場をしようが、私は貴方からかれこれ云はれる気遣はない積りなんですから……理窟を云へばまあかうだがね。」
 白川がこの一転語を下したとき桑野はほつとした。白川は世馴れた口調に調子をかへて、さつきから、額に苦悶の影を漂はせながら相返答もせずに彼の議論を聞いて居た松村に
「それで結局私が聞きたいのは、君の本統の心持だ。いくら私が金主側を説破して
前へ 次へ
全43ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング