かと思ふんだが……。」
「誰がなつたらいいのですか。」
「誰でもいいだらう。君の方の本人だつていいぢやないか。」
「さうですなあ。」白川はわざとよそよそしく云つて桑野の方を見ながら、
「君も知つてる通り、あの戸畑にそんなことが解らうはずがないんだ。どうもね、あんな解らない人間は滅多にありませんよ。何か一寸としたことでも話がかはると、『まあ考へて見ませう』つて、二日も三日もぢつと考へ込むんです。狸爺がなんぞ云つて、あいつがわざと解らない振りをするんだなんて云ふ人もあるがね、さうぢやないんだ。全く呑込みがわるいんだ。ここまで話が進行して来たのを、根本からひつくりかへすとすると……。」
「根本からぢやないんぢやないか。責任者はきまつてゐるんだから。」
「そこですよ。あいつは約手で振出が誰で、裏書が誰でと云ふ条件ならと云ふので承知したんです。それが変更することになると、全《まる》で違つた話になると云ふんです。それはきつとさう云ふに極つてゐるんです。」
「困つたおぢいさんだなあ。」
「それだから話が困《むつ》かしかつたんです。何でもこの行き方ですからなあ。」
 二人は顔を合せて苦笑した。桑野はた
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