書いて置いた。白川君が見えたら此点に就いて、君と相談して置いて貰はうと思つてね。」
 と云つて彼はそれを白川に見てくれと云ふ風に少しく紙片を押しやつた。
 白川は何を書いたものやら想像もつかなかつたので、
「なんですか。」
 さう云つて紙の向きを自分の方に直して黙読した。
 其大意は、甲なる戸畑と乙なる某との間に起りたる訴訟関係は当会社の何等の与り知る処でない。然るに此訴訟関係を解決する方法として当会社が約束手形の振出人となることは理義に合はない。当会社はどこまでも仲介者の位置に立ち保証的の貴任丈を負ふべきに由り、主債務者を他に求められたいと云ふのである。此外に約束手形の期限のことなども書添へてあつた。
 白川は読み了つて之を桑野の方へ渡し、この覚書の意味がどこにあるのであらうかと云ふことを考へざるを得なかつた。しかし一言の下にこの理窟を打ち破つてしまつては彼は面目を失ふことの代りに話は手切れになつてしまふ虞《おそ》れを思つて見た。で白川はさぐりをいれるつもりでかう云つた。
「これによると、誰かが主たる債務者にならなけりやならんと云ふのですね。」
「うむ、どうもねえ、それが本統ぢやない
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