と。旦那様をよんで来て、こまかに調べて見ると、煙草入はあるが緒〆の珊瑚がはづしてある、家重代の伝はりものゝ印籠までが小箪笥の中からとり出されてしまつてある、どれほど胆の太い泥棒であるであらうか、殆ど物語にもありさうな宝蔵破りを思ひ浮べて、恐しさに二人顔を見合せて、しばらく詞も出なかつたこと。夕方になると、何ものかゞ土蔵のまはりにでも忍び寄つて居ると思はれるやうな、土蔵の中には人気がして、はひつて行つたら、恐しい眼で睨まれやしないかと思はれるやうな不気味がつゞいたこと。それが朝夕出入をして居る儀平とこの親父《とつさあ》の仕業であつたと聞いた時は、驚きも怪みも一つになつて心頭から憤《いきどほり》が炎《ほのほ》のやうにもえたつた。先刻《さつき》もお巡査さんの前に散々本人をきめつけた。臓品のありかを捜《さが》したいから証拠人になつて来て貰ひたいと云はれて、一儀もなく自分で出て来たときの心持では、どこの隅隅からでも引つ張り出さずにおくものかと云ふ気組で居たのであつたが、生来おもひやり深い此人の気立からして今此家の内の、むさくるしい、貧しい、どうして食つて行つてるかすら分らない有様を見ると、怒も憎
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