方は座敷の壁に、奥は目なし壁にしきられて、左手の高い窓から僅に日光をとりいれてあるつきりの、まるで夜の様である。小汚い寝具とぼろ着物が二三枚片隅によせかけてあつて、其外になんにもない。箪笥どころか箱らしいものすら見えない。顔をつきいれると、小便くさい臭が鼻をついてむせかへる程であつた。
 お巡査《まはり》さんは顔をしかめて歩みをもどした。なんにもない筈がないと思つて居た疑は、全く消え去つたのではないのであるが、さてどうしていゝか解らなかつた。で、やつぱり女房を責めつける外はないと思つて、ゐろり[#「ゐろり」に傍点]のはたの上座へむづと坐つた。
「こら。」お巡査《まはり》さんは女房をぢつと見つめた。
「どうした。品物はどこへやつた。」
「おらとこ[#「おらとこ」に傍点]でどうさしやつたか、おらあちつとも知らんがでござんす。」
 女房は恐しくないことは決してない。鬼にでも攫まれたやうにさつきから身うちがふるへて居たのである。一所懸命になつて、爐縁に両手をついて見たり、お腹の中に手をさしこんで見たり、落ちつかう落ちつかうと心の中ではいろいろにあせつて見たりして、やつと之れまでもちこたへて来た
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