つた処が廻り縁になつて居て、中は四間の奥行二間許りの板敷がある。それは村の児守子どもの遊び場で、三方ともがらんどうの、戸締とてもない。それから又一段上つて、云はば内陣ともあるべき幅一間程の細長い板の間の奥に龕《おづし》がある。千手観世音が祀つてあるのだ。彼は何と云ふ考もなしに、ふらふらと縁に上つた。そつと草履をぬいで素足のまゝ板敷の板を踏んだ。暗いので足許も確かでない。と、何か足の裏にさゝつたやうな気がして少しく痛かつた。それは※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《くぬぎ》の殻《から》を踏んだので、踏まれた殻は平らにへし潰された。疵をするまでもないものであつた。彼はちつと舌打をして、忌々しさうにそれを拾つて抛りつけた。
やがて龕《おづし》の前に近よつた。太い格子戸の戸が左右から引かれて、太鼓錠が枢《とぼそ》の真中に下つて居る。彼は手さぐりに戸前《とまへ》の処を撫でて見た。冷たい鉄の錠がひやりと彼の指先にさはつた。これと云ふ悪心の起つた訳ではなく、此戸が開けて見たいと思つて手さぐりをしたのではなかつたが、錠と云ふものが自分と龕との間をしつかり仕切つてあることが、云ひしれず憎悪の感
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