るのであつた。
 牢屋は町の外れの砂山の松原の中にあつた。嘗て近所の女房たちと一しよに、茄子や胡瓜の籠をしよつて町へ売りに行つたとき、監獄と云ふものを態々見物に行つたことがあつた。赤煉瓦の塀に沿つて彼等は疲れた足で廻つて見た。
「何とまあ、ふつとい仕かけだかねえ。」
「この世の地獄だつてがんだもの。」
 彼等はたゞきよろ/\として居るのであつた。いくら爪立《つまだち》をして伸び上つて見ても中の模様はおろか、建物の棟さへ見ることが出来ない。ぢつとながめて居ると、この宏大な、重い、頑丈な赤いものが、ずんずん高くのびて行つて、無限に天上までも届いてしまふのではあるまいかとさへ思はれる。無智な、臆病な田舎ものの女共の魂は、こんなことにも悸《おび》えさせられて居るのであつた。やがて門の前へ来た。門は真黒な鉄の扉がどつしりと見る目を圧して固く鎖してゐる。真中に挿しこんである之も鉄のかんぬきは、永遠に絶えざる地上の「悪」を牢《かた》く締め切つて居る。彼等はもうものを云ふことも出来ない。云ひ合した様にぴたりと歩みをとめた。丁度その時くゞりの小さい戸があいた。其口の寸法だけ真四角に門内の土が見えた。小砂
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