と座つて居た。ぢつと……、どんなことがあつても動くまいと思つて、ぢつと……、ぢつと座つて居た。……どうしてこゝが動かれやう。興奮した彼はくらくらと目が廻るやうに感じた。と地震のやうな激しい力が自分を地の底から持ち上げて、自分をはうりだしたやうに感じた。もうその時彼は爐辺から七八尺離れた方へはねのけられて居て、お巡査《まはり》さんは、莚をひんむいて、穴蔵の口の蓋をとりのけようとして居るのであつた。
「あゝ。勘弁しておくんなさい。どうか、どうか、そればつかりは。」
 よろよろした足取で彼はお巡査《まはり》さんの両足にしがみつかうとした。
「何をする。」お巡査さんは、力強い腕をさしのべて、一つき突いた。女《をんな》は一たまりもなく倒れた。そして込み上げてくる涙を絞つて泣きくづれた。

 良人《をつと》はたうとうひかれ[#「ひかれ」に傍点]て行つた。十日や十五日は夢のやうにすぎてしまつたが、女房は良人《をつと》の消息をきかうとも思はなかつた。どう云ふ手続でどう云ふ順序で良人がお仕置になるのであるか。彼には無論想像もつかない。たゞ泥棒をすれば赤い着物をきせられるものであると云ふことだけを考へて居
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