利が敷きつめてある堅さうな土であつた。と、どやどやと人の足音がして、真先に黒服の看守が立つて、二組の囚人が門の外へ出て来た。
 盗人の妻の頭の中にはこの時のことがしつかり刻み込まれて居た。良人がどうして居るだらうと思つて、じつと考へ込んで居るときには、赤煉瓦の高い塀と、黒い鉄の門と、柿色の衣物を着て鎖でつながれた囚人の姿とがいつでも目に浮んで来る。日の目を見ない瞳はどんよりと濁り、頬は蒼ざめ、さかやき[#「さかやき」に傍点]はのびて穢《むさ》くるしくなつて居たあの時の囚人の顔が、自分の良人の顔と一つになつて、まざまざと闇の中でも見えて来る。
 良人が家に居てくれてすら生計《くらし》が付かなかつた手許であつたのに、村中から法外人あつかひにせられ、日傭取に出ようたつて一寸頼み手もなくなつた。十六になる伜は二三ヶ村離れたある知合の家へ奉公にやつてあるが、まだ十二の女の子と九つの男の子が残つて居る。小作をして居た田圃に水がついて鎌入れする張合もない。畑にとれた木綿を少し売つて百姓が麦を買はんければならない。大根と粉米《こごめ》と麦とをまぜた飯でも、腹一ぱいに食ふことが出来ないのであつた。秋はだ
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