云ふ事があるものか。」私は少し冷笑気味に云つて種田君に向ひ、
「告訴状かしら。」
「さうさね。」
「その告訴つてどんなことなんです。」
「つまり其男が恐喝したんだからよろしく御処分願ひますと云ふやうなことさ。」
「いいえ。あたしから御処分を願ひますなど決して申さなかつたんです。そんなことをすると跡《あと》がこはいんですもの。」
「ぢや始末書かも知れぬ。それからどうした。」
「もう帰つてよろしいと警部さんが仰有るものだから、それで事が治まつたものと思つてますと、昨日《きのふ》こんな端書《はがき》が来たんでせう。」
お糸さんは帯の聞から二つに折つた一葉の端書を取出した。種田君と私とが殆ど一しよに手を出した。見るとそれは予審判事からで訊問の筋があるから何月何日出頭せよと云ふ、例文の呼出状であつた。最前から話に気を取られ乍《なが》らも黙つて碁盤に向つて居た草香宮川の両君も之を見た。
「なんだいこんなもの。」最初に宮川君がふき出した。
「昨日夕方この端書が来ましたの、あたしに裁判所へ来いつてんでせう。私もうこはくてこはくて、昨夜《ゆふべ》は寝ずに心配しましたわ。」
「何も心配することがないぢや
前へ
次へ
全35ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング