二黒の巳
平出修

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)間延《まのび》な

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)に芸者|家《や》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「欸」の「ム」に代えて「ヒ」、第3水準1−86−31]待
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 種田君と一しよに梅見に行つて大森から歩いて来て、疲れた体を休ませたのが「桔梗」と云ふお茶屋であつた。
「遊ばせてくれますか、」と種田君はいつもの間延《まのび》な調子で云つたあとで、「エヘツヘヘ」と可笑しくもないのに笑ふと云つた風に軽く笑つた。私は洋服であつたが、種田君は其頃紳士仲間に流行《はや》つた黒の繻子目《しゆすめ》のマントを着て、舶来《はくらい》の鼠《ねず》の中折帽《なかをればう》を被《かぶ》つて居た。
「いらつしやいまし、」と云つて上るとすぐ階子段《はしごだん》を自分から先に立つて、二階へ案内したのが、お糸さんであつた。色の浅黒い、中高な、右の頬の黒子《ほくろ》が目にたつ、お糸さんは佳《い》
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