ないか。」種田君は微笑み乍ら云つた。
「だつて未決とやらへやられるつてぢやありませんか。」
「馬鹿な、そんな事が。」私は言下に打消した。
「でも内の姐《ねえ》さんが、それはそれは大騒ぎをやるんでせう。未決へ行くと、毛布がいるの紙がいるのつてね。明日《あした》は内へ帰らない覚悟で出なけりやつて、今朝からお不動様を拝んで居ましたんですの。」
「お前さんがつまりゆすられたんでせう。」
「さうですわ。」
「自分がゆすられて、自分が監獄へ行つてたまるものか。」
種田君は全く真顔で説明をした。
「此端書はお前さんに尋ねたいことがあるから出て来いと云ふんだ。何でもない事ぢやないか。証人に呼ばれたんだよ、お前さんが。」
「へえ、それぢやまた警察の様《やう》なことを聞かれるんですか。」
「さうだ。」
「それで先生。」お糸さんは少し落ちついた。「ねえ先生|跡《あと》がこはいんですから、おあしはあげたけれど、あれは先方で何も仰有らないうちに、あたしからあげたんですつて、さう申したらわるいでせうか。」
「それこそ未決騒ぎがおきるよ。」私が話を引取つた。
「先方が何も云はんのに、君がおあしを上げたつて、そんなこ
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