とは云つたつて、誰がほんとうにするものかね。」
「それはさうですねえ。」
「そんな嘘を云つちやいけないよ。」宮川君も側から口を出した。
「だつて跡がこはいんですもの。」
「跡がこはいからつて。それよりは明日の事だ。明日丈のことは正直に云つてしまへば、お不動様も何もありやしないよ、」と私が云つた。
「それぢやすぐ未決などへやられることはありますまいか。」お糸さんはまだ不安げに念を押してゐる。
「大丈夫さ。心配することはないよ。両先生が後見して下さるんぢやないか。」草香君が此話の総括《そうくく》りをつけてしまつたので、お糸さんは心から嬉しさうに、
「それで内での相談に、どうしたらよからうつて姐さんといろいろ考へましたの、何んでもこんな事は先生方におきき申すのが一番早いと思ひまして、電話でお伺ひ致しましたんです。あたしの様なものが上つて御迷惑かと存じましてね。ああ、もう之れですつかり安心致しました。」と何遍も何遍もお辞儀《じぎ》をした。
「先生へ御礼はどうするんだい、」宮川君がそろそろからかひはじめた。
「いえもうなんなりとも、」とにつこりした。
こんな時でも此女には艶《なま》めかしいと思
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