はれるこなしがちつとも見えない。あのきりやうでじやらじやらされては却つて辟易《へきえき》するかも知れぬが、盛り場に育つてここに年中呼吸して居る女とはどうしても思はれない。
その次にお糸さんに遇つたのは一年ほど経つてからであつた。東京座で団蔵の師直と梅幸のお岩とが呼物で大層な景気であつた。私は家内と子供をつれて見物に行つた。其日お糸さんも三業組合の連中で私達のつい傍の桝《ます》へ来て居《を》つた。私を見付けるとやつて来て何やかや話をして居た。家内にも挨拶をして居た。「おもちやさんも来てますよ、」と云つて、
「あすこの土間で、お納戸《なんど》色の羽織をきて、高島田に結《い》つてませう。いまちよいと中腰になつてます、あれですよ、」
と指さして居ると、おもちやもふつとこちらを向いた。お糸さんはおいでおいでをした、「なあに。」と云つたやうなこなしをして私の方へ桝の枠をつたはつて来た。
「栗村さんよ。おもちやさん。」
「まあ、」と云つておもちやは頭を下げた。
「大きくなつたなあ。」私は本統にかう云はずに居られなかつた。「もう立派な姐さんになつたね。」
「え、え、此頃はもう、隅におけませんよ。」
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