お糸さんが来ると四人が揃つて口口に串戯《じやうだん》を云つた。
「あら、まあ。」お糸さんも此一座の思ひがけない光景に驚いた。
「まあ。」とまた云つた。「皆さんどうなすつたんです。」
「君を待つて居たのさ。」
「君から電話だつたから、みんなを集めて置いたんだ。」
お糸さんの用事つてのは詰《つま》らないことであつた。品川のある小新聞社の社員が艶種《つやだね》を売りに来たので、少し許《ばか》りの金を「桔梗」のお上《かみ》がくれてやつた。それと同じ様なことが外に二三軒あつたので足がついて、其奴《そいつ》が警察へ引かれる。お糸さんもかかりあひとあつて警察へ呼び出された。
「警察へ行つてこれこれだと申上げると、警部さんが一一聞き取つて、何やら書いたものに判を押せと仰有《おつしや》るんです。判は持参致しませんと申しましたら、爪印《つめいん》でもいいつて仰有るんでせう。とうとう自分で名前を書いて爪印して来たんですが、一体それは何ていふ書付なんでせう。」
「何ていふ書付か、それはお前さんに聞きたいんだ、こちらで。」と種田君が云つた。
「だつて読んでも見ないんですもの。」
「読まない書付に判を押すと
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