あてたので、お糸さんから女へ届くやうに仕組《しく》んであつたのである。女はすつかり真《ま》にうけて、
「松田さんの奥さんもあんまりだ。あれつぱかしの遊びがなんだ、」と云つて腹を立て、「それにしても松田さんこそお気の毒な。知らぬ他国へなんどやられて、養子と云ふものは辛《つら》いわねえ、」と云つて、お糸さんの前でほろはろ泣いて居たと云ふ事だ。
「桔梗」へ行き出してから三年ほど後の事であつた。私は種田君の事務所へ行つた。宮川も草香も先に行つて居て、雑話に耽つて居た。
「今お糸が来るぜ、」と種田君は私を見るなり云つた。
「へええ。どうしたんです。」
「なんだか、先生にお願ひがありますつて、今電話が来たんだ。」
「久し振だね。あの方面の噂も。」
「一体四人が揃つたのも久し振じやないか。」と一番年かさの宮川君が云つた。
「なんだか無事に治《をさ》まりさうもないな。」草香君は例の如くにやにやして居る。
「品川方面は御免だよ。」
こんなことを話し合つて居たが、お糸さんが来たら、何か一趣向《ひとしゆかう》をしようかと皆が思つてるらしかつた。
「今日はお糸さんがお客さんだ。」
「さあずうつとお先へ。」
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