《はごろも》と云ふ女を買ひなじんだ。もう女としての見所もない大あばずれだと私達はきいて居た。松田もまだどこかにお坊つちやんの処はあるが、それかと云つてそんな女に打ち込むほどの初心でもないのである。お座なりのお世辞がだんだん身を縛つてしまつて、ぬきさしの出来ない破目《はめ》となつたのでもあらう。
「さうして松田はどうすると云つてるの。」
「為方《しかた》がないから借金だけ払つてやらうかと、おつしやつていらつしやいました。」
「馬鹿な、そんな事をしてどうなるか。」
「あたしもね、いろいろ考へて居ますけど、あたしから申上げたつてもねえ。」お糸さんは客の不為《ふため》の事となるといつもかう真面目であつた。
私と草香君とが松田の名で手紙を書いた。あんまり遊んだので首尾がわるくて上海の支店へ出稼ぎにやられた。何月の何日に東京を立つて何日に此地へついた。外国と云つた丈でも分るだらうが誠に寂しくてたまらない。かう云ふ趣意のものを書いてそれを上海の友人へ送つてそこから発信して貰ふ。一方松田君に遇つて姑《しばら》く足を遠のかせた。上海の消印のある手紙を請取つてお糸さんは女に見せた。手紙の表書はお糸さんに
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