。殿方で三十五六で独り身だと云ふ方は、何かそれには訳がありませう。」
「さうさなあ。女房にさられたとか、死《しに》あとで子供があるとか。さもなけりや身がもてないとかだらうね。」
「だもんですから考へて見ますと、おそろしくなりますの。と云つてまさか二十代の人ももてませんでせう。」
「それもさうだな。けれどさうしてゐたら、心細くはないの。」
「たよりないとも思ひますわ。行先のことなど考へますとね。けれど男の方ほど宛《あて》にならないものはないやうな気もしますわ。」
「浮気もの相手の商売をしてゐるから、そんなところが目につくんだ。」
「僕はまた女ほど宛にならんものはないと信じて居る、」と藤浪君が云つた。
「さうぢやありませんよ。女の方がまだたしかですよ。」
「君がさう云つても駄目だよ、」と私は藤浪君に云つて、
「お糸さんは、女買にゆくときの男を知つてる丈で、まじめなときの男を目に入れないんだから。」
「大さう話がむづかしくなりましたこと。あ、貴方の華魁《おいらん》ね。あのしともひきましたよ。」
「さうかい。一ぺんあひたかつたな」
「うそばつかり。これですもの、殿方はあてにならないわ。」
食
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