そこは確かだらうと思ふ。」
「わかりませんよ。景気がわるくなると逃げだす方かもしれません。」
「串戯《じやうだん》は串戯だが、お糸さんはまだないの、」と私は詞を改めた。
「そんな気のきいたものがある位なら。」
「ないつてことがあるかね。」
「ほんたう。そんなものがあれば大変ですもの。」
「何が大変なんだ。」
「うちがですよ。それはなかなかむづかしいんですから。」
「むづかしいつて、お糸さんは『桔梗』の娘分だらう。」
「ええ。」
「それでどうして。」
「とても駄目なんです。もうあきらめてゐますわ。」
「あきらめる年でもあるまい。一体いくつになるね。」
「あたし、じこくのみです。」
「巳年《みどし》と云ふと、とかく執念深いだらう。」
「いいえ、おなじ巳でも一白や三碧とはちがひますの。縁の薄い星ですつて。」
「僕もじこくのみだ。ぢやお糸さんも二だね。僕もやつばり星にまけてるんだ。」と藤浪君が云つた。
「貴方も星まはりが悪いんですわね。」
「じこくのみは三十二か。それならまだ盛りと云ふもんだ。今の内ならどうにもなるだらう。」
「もう遅うござんすわ。考へてごらんなさい。どんなかたが来てくれますか
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