くのもをかしいが、じつさい愛想のない女だね、」と私が真面目顔に云へば、
「どうしたんでせうねえ。勿体《もつたい》ないわ、貴方方に。」などとお糸さんは私に同情してくれる丈であつた。
「取りかへてごらんなさい、」と云つてくれたこともあつたが、
「なあにもてなくてもいいんだよ、」と私ははつきりしたことを云はない。
「貴方はさつぱりしていらつしやるんだから、」としひて見立替《みたてがへ》を勧めるでもなかつた。
ともすると連中一同が調子を外《はず》して大騒ぎをすることがある。宮川君丈が上戸《じやうご》であとはみんな下戸《げこ》であつた。その下戸の種田君に追分と云ふおはこがあつた。何程《どれほど》の甘味《うまみ》のあると云ふではないが、寂《さび》のある落ちついた節廻しは一座を森《しん》とさせることが出来た。金太郎と云ふ芸者がひよつとこ踊でよく喝采を博した。おもちやは鼓《つづみ》をうつ。お糸さんも細いすきとほつた声で、中音に都々逸《どどいつ》や端唄《はうた》を歌ふ。素人《しろうと》ばなれのした立派な歌ひ振《ぶり》であつた。さう云ふ中で私も負けぬ気でうろおぼえの御所車《ごしよぐるま》などを歌ふのであ
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