る。ある晩お糸さんが、
「おもちやさんがさう云つてましたの、栗村さんは歌を歌はないといい人だけどとね、」と云つておなかを抱へて笑つた。
「正直でいいね。」私も一しよに笑つた。
「おもちやさんは栗村さんに惚れたのと聞きますと、あの子がおもしろいんですの。惚れたつてつまらないわ、年が違ふんですものと云ふんです。自分と同じ位の人でなくちやならないと思つてるんですね。」
「さうさ。三十と十四ぢや少し違ひすぎるかも知れんね。」
一年あまりの間に私達の遊びもやや気がぬけて来た。はずみがなくなつたと云はうか興味がさめたと云はうか。とにかく私達の足も大分遠のいて来た。
「すつかりお見かぎりですね。」などとお糸さんは電話をかけて来ることもあつた。私達は共時々いい加減の挨拶をして居たが、其頃は主に新橋で会遊するやうになつて居たのであつた。
「まあお珍らしいこと。」お糸さんは私の貌《かほ》を見るなりさう云つた。本統に久しぶりであつた。どうした気の向き様か草香君と一緒に半年振り程に「桔梗」へ行つたのである。
「此頃は新橋ださうですね。若くつて綺麗ですから御無理もありませんけれどねえ。」お糸さんはこんなことを
前へ
次へ
全35ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング