肋膜さ。」
「さうですか。うちのおもちやもやつぱり。」
「肋膜をやつてるの。」
「ええ、赤十字病院へ行つてますの。も二月ほどになります。」
「そりや大事な金箱を痛めて困るね。此病気は長いからな。」
お仲さんの酌んで出した番茶に喉を霑《うるほ》して三人づれで出かけた。
館の門をはいると、女中が式台《しきだい》の処へ出迎して居る。
「妙なお客が来ると思つてるだらう。」私は女中の方を見乍ら云つた。
「男二人に女が一人つてんだからな。」藤浪君も笑つた。
「その女もこんなに汚《きたな》いおばあさんですものねえ。」
果して女中の眼の中には判断に迷つたらしい色がただよつて居た。
「おとまりでいらつしやいませうか。」座敷の都合でもあるのか、此三人の正体をさぐる材料にでもするのか、女中はかうきいた。
「とまるかも知れんが、とにかく二時だ、御空腹と云う処だ。」
「かしこまりました、」と云つて女中は奥まつた座敷の二階に通した。
上日《うはひ》がいいので、電車から橋を渡つて赤い鳥居の並んだ途をあるいて来る間に、全身は少し汗ばむ程であつた。座敷へ落着くと軽い疲労を覚えて私はすぐ横になつた。わづらつた左の
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