》羞《はづ》かしいと思ふであらう。四年にもなる今日迄、まだこんな態《ざま》をして居りますと云はなければならない女の苦痛は、決してなみ大抵ではあるまい。
「今日来て下さる丈の親切のある方なら、なぜ顔を見ずに帰つて下さらなかつた、」と云つて、口に出さぬまでも心に怨めしく思ふであらう。それ程|辛《つら》い思を女がするだらうと思つてるのに、そのつらさうな顔を見に行くのは、私はあまり惨《むご》い為打《しうち》であると思つた。もし又私の想像に反して、女が案外平気で洒蛙洒蛙《しやあしやあ》して居つたら、私の美しい憧憬は破れ、私の美しい幻は即座に消えてしまふであらう。さうなれば私の方で苦痛だ。私はまだ夢の中の人間となつて居りたいのであつた。
「何しろ今日は看護人なんだから、」と云つて、九時少し過ぎに「桔梗」を出た。
 乾ききつた寒中の夜の風は、外套の袖をつらぬく程であつた。折角《せつかく》暖かになつた二人の身体はまた凍り付くかと思はれた。種田君は梢《やや》確《たしか》な歩調を運ばせ乍ら、
「どうも不思議でならん、」と呟いた。
「何がです。」
「あすこの内のものの親切がさ。実に今夜なども有難い位であつた
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