ると、こんどはあの婆さんが来て、年始の手拭を何反とかこさへてくれと云ふんだ。」
「そんな事がありましたかしら、そしてどうなすつたの。」
「まさかいけないとは云はれないぢやないか、いくら位いるんだと、わざと問うてやつたのさ。大したことではありませんと云ふから、之れで間に合しておけと云つて、拾円ふだを一枚おいてきた。小一年にもなる女だから、それ位のことは惜しくもないさ、惜しくつともまあ惜しくないつてことにしておくさ。けれど甘く見てやがるかと思ふと、癪にさはつたよ。」
「それでも貴方は、あの人一人つきりにしておおきなすつたわね。」
「かへたつてどうなるものか。」
「だから今夜行つておあげなさいよ。」
「もう真平《まつぴら》だ。」
かうは云つたけれど、私はどんなにして居るか遇つて見たいと思はぬでもなかつた。四年もたてば、私も変つた。女も変つたであらう。どれほど変つたか遇つて様子が見たかつた。しかし突然今私が行つたら女は何と思ふであらう。私はかう云ふ種類の女に対しても常にある憧憬《どうけい》をもつてゐる。もし私の憧憬する幻をもととして、私にあつた今夜の女の心持を想像して見ると、女は屹度《きつと
前へ
次へ
全35ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング