、みんなにはいいのをあてがつてくれつて、御自分はぢきにお帰りなさいました。貴方はと申しますと、『お糸さん、私も昔と違つてなあ、どうも品川で女買が出来なくなつたよ。』つて笑つていらつしやいました。」
「さうさな、松田君も今は日の出だからなあ、」と私も云つた。お糸さんは其詞の後について、
「貴方ののがまだゐますよ。」
「へえ、あれがかい。これは驚いた。」
「今夜行つておやりなさいな。」
「松田君ぢやないが、どうもねえ。しかしお糸さん、あの頃もをりをり話したこつたが、どうしてもあの女とは気が合はなかつたね。」
「さうでしたわねえ。どうしたんでせうね。」
「やつぱりもてないのさ。処《ところ》で一つ珍談があるんだ。お糸さんにも話さない事なんだが。」
「あのひとのことで。」
「さうさ、なんでも年の暮だつたよ、ここから皆と一しよに行つたんだ、もう座敷はあいてゐないので、例の通りすぐ返らうとすると、妙にとめるんだねえ。をかしいなと思つたけれどちつとは己惚《うぬぼれ》もあるわね。まあ名代《みやうだい》へ坐り込んだ。すると女がやつて来て、ありもしない愛嬌を云つてるだらう。いい加減にこつちもあひしらひしてゐ
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