たんだ、蔭乍ら喜んで居たよ。」
「どうも御親切様。」
「しかし女はかうも変るものかね。それにくらべるとお糸さんはいつもおんなじだが、一体いくつかね。」
「もうおばあさんですよ。」
「さうでもあるまい。けれど初めて遇つたときだつて、まさか十九や二十ぢやなかつたんだからなあ。やつぱりひとりかね。」
「誰が相手にしてくれますものか。」
舞台の用意が出来たと見えて、木がはいつた。やがて幕あきのしやぎりの鳴物《なりもの》が耳に近く響いて来た。
私達の連中もいろいろ変つた。松田君は二年程掛かつて拵《こしら》へ上げた保険会社と銀行とで、社長やら頭取やらの位置を占めて、青年実業家として方方を切廻して居る。草香君は其会社の支配人となつた。宮川君は何か失敗して姑《しばら》く音信もしない。一番気の毒なのは種田君で長いこと患《わづら》つた。そして脊髄の疾患で立ち居が不自由になつた。小半里の路さへ歩くにも容易でない。ふだん半病人の生活をつづけて居る。去年の一月の中頃であつた。種田君と私の家族とが穴守《あなもり》へ遊びに行つて一泊して夕方帰途についた。蒲田で乗換へた品川行の電車が生憎《あひにく》混雑して居つ
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