ひました。判事さんの前へ行きますと、お前は誰だつて、大そう威張つてねえ。」私達はもう舞台の廊下に来て居つた。単物《ひとへもの》からセルへうつる時候で、生憎《あひにく》其日は蒸《むし》熱いので、長い幕合を涼みがてら廊下に出て居る人が多かつた。
「それから………と云ふ者を知つてるかとおつしやいますから、へいと申しました。どうしておあしをやつたかとおたづねになりますから、ふだん懇意にしてますからと申しますと、懇意にしてるからつておあしをやるやつがあるかとどなられましたの、もうあたし震《ふる》ひ上《あが》つちまひました。」
そこへおもちやもやつて来た。
「姐さん夢中ね。」
「ああ。あの裁判のお話さ。」
「さう。」
「大きくなつたなあ。」私はまたかうくりかへした。「いくつかね。」
「十八になりました。」
「もう四五年もたつたからなあ。」
「この頃はちよつともいらしつて下さらないんですもの。ねえ姐さん。」
「新橋の方がそりや上等ですもの。」
「そんな訳ぢやないんだ。すつかり納まつてしまつたんだよ。さうさう。此間やまと新聞かで品川芸者の評判記が出てゐたが、おもちやさんが一流の流行つ児だと書いてあつ
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