願つて来たの、どうかいい人を授けて下さいかね。」
「商売繁昌をお願ひ申したんですわ。」
「ここへ来てもまだ慾張つてゐるんか。」
「一番当りさはりがなくつていいでせう。」
「神様の前に当りさはりを考へてゐるものがあるものか。」
「当りさはりつて云へば、いつかはいろいろ御心配をかけまして、あの裁判の事で。」
「どうしたね。種田君から一寸聞いたけれど。」
「お蔭様でねえ。あたしお話伺つてすつかり安心しちまひまして、夕飯まで遊ばせて戴いたんでせう。帰つたのが十時頃でしたわ。内ぢやお昼過ぎに出たつきりなもんですからどうしたんだらうと云つて心配してゐましたつてさ。私の顔を見るとどこへ行つてゐたんだよつて、姐さんが申しますの。これこれだと話をすると、それはまあよかつたと皆が喜んでくれましてね。それでもあたしばかりそんな呑気に御馳走になつたりなんどしていいけど、内ぢや大そう心配して居たんですから、姐さんの前へきまりがわるくなりましてね。」
「それで裁判所へ行つたの。」
「ええ、行きました。午前九時つてますから、一生懸命に朝起して出かけましたの。十一時頃まで、あの廊下の椅子の処で待たされて散々になつちま
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