誌記者にでも襲はれてるんだらう。俺はあれの前では、こんな切《せつ》なげな眼付《めつき》をしては居らない。愛子は俺の心を読む術を知つて居る。俺が黙つて居る間にも、俺が何を思念し欲求して居るかを看取してしまふ。人間が思索する丈では物界の現象が動かないと云ふ定則は、愛子によつて屡破壊しかかつた。愛子は此定則と反対に俺の思索を現象の動揺と見るらしい。只あれの神通力も時には其通を失つて、俺の考と全く違つた方面に事実の認定をしてしまふことがある。鬼神でない一介の婦女子だから、敢て詰責するにも当らないが、俺は苦苦《にがにが》しく思つたり、片腹痛く感じたりすることがないでもない。日外《いつぞや》もかう云ふ事があつた。吉原が全焼した当時のことで、此天災を好機として吉原遊廓の滅絶論を唱へる人があつた。救世軍や基督教徒を中心とした一団と、女権論者の一群とが首唱者であつた。ふだん女権などを云はない人でも、婦人は流石に之には賛同せざるを得なかつた。旭光新聞などは四方に訪問記者を走らせて、名流の談話、殊に婦人達の談話を聴取させて、之を毎日の紙上に発表した。大同小異で、何れも吉原再興に反対する宣言であつた。其間に立
前へ 次へ
全15ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング