る。俺はそれが嫌なのだ。女は容色の衰へをかくす為に目新しい扮装《ふんさう》をさがして移つてあるく。俺は愛子がさう云ふ技巧に浮身をやつして居るのを感謝するのが当然であると思つても、俺はかうして羽がひじめにされて行くんだと云ふ考へが先に立つ。それでもよせと一言《ひとこと》云つたことはない。俺にはそれを云ふことが出来ないのだ。
此間も上野へつく汽車の時間を見計《みはか》らつて、愛子は俺を出迎に来た。俺は初めは愛子とは思はなかつた。車を下りてプラツトホオムのたたきを歩いて居ると、改札口に若い女が美しい洋装で立つて居る。別に一等室には乗合客もないのであるが、誰の出迎をして居るのであらうと、俺はそろそろ近よつた。するとそれが愛子であつた。新橋ならまだしも、上野では一寸珍らしい出迎へだ。改札口の内外《うちそと》に人だかりがしてどの目もどの目も愛子に注がれて居る。俺は心に怯れが出て来た。むづがゆい様な思ひもした。愛子は外に人が居るのか居ないのか、そんな頓着もないらしく、つとよつて来て俺に握手を求めた。俺は其手を払ふことが出来なかつた。俺は誰が見ても六十に近い半白《はんぱく》だ。愛子は精精で三十位にし
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