曲線を作ることにならされた身体はここへ来ては螢ほどの光も放たない。それに比べると、あのけばけばしいおつくりをして、男の様な足取であるきまはつて居た女優の方が、ずうと人目を惹く、幾層倍の刺戦を与へる。俺はつくづく思つた、女の風俗も一転化するんだと。愛子は既に一転化した女であるかもしれない。
 一転化した女を自分は好くのであらうか。俺の頭はこんな疑問にぶつつかると、全く度を失つてしまふ。落伍者だと云つて世人から冷罵を浴びせかけられて居る人があるが、俺もその落伍者になつて居るらしい。友人の浅田が狭い庭の中で、二千円もかけて温室をつくつた。その傍へ萩、桔梗、女郎花なんどを三間《さんげん》四方ほど植ゑこんで、まん中に水道をひいて細流を作つた。俺は温室の中を覗いてるよりも、僅四五時間で作りあげたと云ふ秋草の庭が気に入つた。俺は自分で洋服が嫌ひだ。それははきぬぎに手数がかかるからだ。俺は又女の洋装がきらひだ。之は日本の女がすらりとして居ないからだ。愛子は比較的に洋装が体につく。夜会へ出てもひけはとらない。けれども俺は本統は嫌《いや》だ。愛子は誰の為に洋装をするものか。みんな俺に見せたいばかりなのであ
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