はぶ》りの踊。伊勢|音頭《おんど》の作りかへもさせられた。俺は外ヘ出る必要もなくなつた。柔媚《じうび》を四畳半に求むることも出来なくなつた。俺は一時間の黙想をすら許されないのである。独逸民法精神論の解説を公刊した頃は、頭脳の明晰を以て天下に迎へられた俺が、此頃は全く疲れた。俺の官能は強烈の刺戟に生き、俺の肉体は楽欲《らくよく》にとろかされた。精神がぽうつとすることさへある。俺の魂はどこへか行つてしまつたのではあるまいか。こんなことを思つて、そのかくれ家《が》をさがさうとする、すぐ愛子の額付《ひたいつき》が眼底に浮ぶ。俺はそれを払ひのけることが出来なくなつてゐるのであつた。
俺は先だつて愛子につれられて帝劇へ行つて見た。あの堅い建築物と、色彩の強い装飾の中では、女の縞《しま》お召《めし》の着物がちつとも見|映《ば》えがしない。愛子が「あすこは椅子ですから」つて洋装で行つたのには、俺は驚いた。あの女は既に舞台と自分との関係を考へて居たのであつた。或は無意識であつたかもしれないが、とにかくある調和を感得して居たのであつた。其日の見物中には五六人の芸者も見えて居たが、薄暗い座敷の中で、柔かい
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