せんか。それから私の窮乏|困蹶《こんけつ》が始まり、多數の同志は悉《こと/″\》く脣を反らし、完膚《くわんぷ》なきまでに中傷しました。××に買收された××だとまで凌辱されました。生活に窮した爲、藏書や刀劍や、祖母のかたみの古金錢までも賣り、母の住宅までも賣らねばならぬ樣になりました。それでも私は貴方に裏切りはしなかつたでせう。」
 亨一ははふり落つる涙を拂つて詞《ことば》をつづけた。
「無拘束は私達の信條ですから、勿論戀愛も無拘束です。もし貴方の愛情が他へ移るのならそれも貴方の自由で私は何とも云はない積りです。妻と云ふ詞が從屬的の意義をもつて居るとすれば、貴方は私の妻ではありません。貴方は貴方で、獨立の女として、私は貴方の人格を尊重しませう。現に今日迄も尊重して來て居るつもりです。只私も貴方も戰鬪に疲れた。そして二人とも輕からぬ病氣を抱いてる。私が貴方に家庭の人と云つたのは、貴方に從屬を強ひたのではなくて、貴方に休養を勸告した積りです。小夜子の問題なんぞ、私と貴方とに取つて大した問題ではないぢやありませんか。それよりも、私達が生きなけりやなりますまい。健全に、活々《いき/\》した生命を
前へ 次へ
全31ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング