のである。趣味、感情、理想、それから亨一の主義と小夜子とは全くかけはなれたものであつた。殊に外圍からの干渉は、二人が育てた九年間の愛情をも虐殺してしまつた。小夜子は別《わかれ》て靜岡の姉の家に身をよせたが、亨一は之に對して生活費を爲送《しおく》る義務を負つて居た。毎月|爲替《かはせ》にして郵送するのがすず子の爲事の一つであつた。亨一が一切の家政をすず子に任せたとき、すず子はこの爲事を快く引きうけた。それから一年に近い間、この小さい爲事は滑《なめらか》に爲遂げられて來たのだが、今日はすず子に堪へられない惡感《をかん》を與へるのであつた。
しばらくしてすず子は泣聲をやめた。けれども苛立《いらだ》つ神經は鎮まらなかつた。
「離縁した女に貴方がどうして義務を負つてるんですか。」すず子は聲をふるはして云つた。
「そんなことを云つたつてしやうがないぢやありませんか。」
「私ねえ。前々から疑問でしたの。貴方は小夜子さんとは他人となつた方でせう。それだのに……。」
「そんな事を云つたつて、女の生活ぢやありませんか。どうするにも方法がつかないんです。」
「けれども理由のない救助は、救助する方もをかしい
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