で凌辱されました。生活に窮した為、蔵書や刀剣や、祖母のかたみの古金銀までも売り、母の住宅までも売らねばならぬ様になりました。それでも私は貴方に裏切りはしなかつたでせう。」
亨一はふり落つる涙を払つて詞をつづけた。
「無拘束は私達の信条ですから、勿論恋愛も無拘束です。もし貴方の愛情が他へ移るのならそれも貴方の自由で私は何とも云はない積《つも》りです。妻と云ふ詞が従属的の意義をもつて居るとすれば、貴方は私の妻ではありません。貴方は貴方で、独立の女として、私は貴方の人格を尊重しませう。現《げん》に今日迄も尊重して来て居るつもりです。只私も貴方も戦闘に疲れた。そして二人とも軽からぬ病気を抱いてる。私が貴方に家庭の人と云つたのは、貴方に従属を強ひたのではなくて、貴方に休養を勧告した積りです。小夜子の問題なんぞ、私と貴方とに取つて大した問題ではないぢやありませんか。それよりも、私達は生きなけりやなりますまい。健全に、活々《いきいき》した生命を養はなきやなりますまい。」云ひ来つて亨一はやさしく詞を和らげた。
「ねえ、もういいでせう。神経が起きると又いけないから。」
すず子は男の一語一語を洩らさず
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