れて静岡の姉の家に身をよせたが、亨一は之に対して生活費を為送《しおく》る義務を負つて居た。毎月|為替《かはせ》にして郵送するのがすず子の為事の一つであつた。亨一が一切の家政をすず子に任せたとき、すず子はこの為事を快く引きうけた。それから一年に近い間、この小さい為事は滑《なめらか》に為遂《しと》げられて来たのだが、今日はすず子に堪へられない悪感を与へるのであつた。
しばらくしてすず子は泣声をやめた。けれども苛立《いらだ》つ神経は鎮まらなかつた。
「離縁した女に貴方がどうして義務を負つてるんですか。」すず子は声をふるはして云つた。
「そんなことを云つたつてしやうがないぢやありませんか。」
「私ねえ。前々から疑問でしたの。貴方は小夜子さんとは全くの他人となつた方《かた》でせう。それだのに……。」
「そんな事を云つたつて、女の生活ぢやありませんか。どうするにも方法がつかないんです。」
「けれども理由のない救助は、救助する方《はう》もされる方もをかしいぢやありませんか。」
「理由がないつて、全然ないとも云はれませんよ。」享一の眉宇には迷惑さうな色がありありと見えた。女はそんなことには何等の頓着
前へ
次へ
全31ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング