私をぢつとさせて置かないやうで、どう云つたらいいでせう。私の身体ぢゆうに油を注いで、それに火をつけて、その火を風で煽る如《やう》に、私は苦しくつて苦しくつて、騒がずに居られないやうな、折折気が狂ふのかと思ふやうな心持がして来ますの。私ねえ、貴方のお傍に居ないのであつたなら、疾うにどうにかなつて居ましたのでせうよ。」
「貴方はまた亢奮しましたね。いけません。いけません。」男は女から膝から自分の手をもぎとる様にして引いた。
「いいえ。大丈夫です。今日は私はしつかりして居ます。私が労役に行くと云ふことも、畢竟《ひつきよう》は貴方の御意思通りに従はうと云ふにすぎません。なぜとおつしやるんですか。私は労役に服してそこに平和を発見して来ようと思つてるんですもの。あすこは別世界でせう。全く世間とは没交渉でせう。今日のことは今日で、明日のことは明日と云つたやうに、体だけ動かして居れば、時間が過ぎて行く処です。自由、自由つてどんなに絶叫して居ても、到底与へられない自由ですもの、いつそ極端な不自由の裡《うち》に身を置いてしまへば、却つて自由が得られるかもしれません。」
亨一は此話の間に屡々|喙《くちばし
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