》を※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]《さしは》さまうとしたがやつと女の詞の句切れを見出した。
「馬鹿な、空想にも程がある。貴方だつてあの中の空気を吸つたことがある人ぢやないか。あの小さい小ぜりあひ、いがみあひ、絶望が生んだ蛮性。あれを貴方はどう解釈してるのです。」
「私にはまだ大きな理由があります。蕪木のことがその一つ。」女は男の体にひたと身をよせた。
「蕪木が私達を呪つて居ます。私が貴方の傍に居ることは、貴方の身体にも危険です。私があちらへ行つたら、ちつとは蕪木の憤激がやはらぐでせう。それから私は貴方の教訓に従ひます為に、三阪さん、多田さんとも文通を絶つ必要があります。官憲が丁度よく私と外界とを遮断してくれますから、私に対するあらゆる讒謗《ざんばう》も、呪咀もなくなつてしまひませう。その代り私が帰つて来ましたら……。」
女は今日に限つて涙が出ない。之れ丈の事を云ひ尽すのに、何にも泣かずに云つてしまつたことが不思議のやうに思はれた。こんなにものを云つてる人間が自分の外にあつて、自分はただその仮色《こわいろ》をつかつてるにすぎないのではあるま
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