つて草を藉《し》いて腰を下した。五月の日盛りの空はぼうとして、起伏する駿州の丘陵が薄い霞の中から、初夏の姿をあらはして居る。風が温かく吹いて、二人の少し汗した肌を心持よくさました。
二人は暫く黙つて景色に見入つて居た。
「私、弥《いよいよ》決心しました。」女の方から話しかけた。
「ええつ。」と男は問返すやうな目付《めつき》をした。
「私、行つてきますわ、労役へ。」女はかう云つて男の手をとつた。そしてそれを自分の膝の上までもつてきて、指を一本づつ折るやうにして、まさぐつた。
「今決しなくともいい問題だ。」男はわざと空《そら》空しく云つた。
「とても罰金が出来さうにもありませんし、それに……。」
「金なら作る。屹度私が作る。」男は皆まで云はせずきつぱり断言した。
「それに私はいろいろ考へることがありますの。第一金銭問題で此上貴方を苦しめると云ふことが私には堪へられないんですもの。」
「そんなこと……。」男の云はうとするのを今度は女が遮つた。
「まあきいて下さい。私度度貴方に叱られましたわねえ。落着かないつて。私もどうにかして平和が得たいと思つて、いろいろ反省もしたんですけど、何だか世間が
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