裁判長は型の如く訊問を終へたがやがて又記録を繰つて一審判決の原本を見出した。
「一審判決によると、お前は××郵便局集配人として勤務中、第一、年月日××町××番地の郵便函の中より御大葬の絵葉書一組を竊取《せつしゆ》し、第二、年月日××町××番地の郵便函の中より封書に貼用《てふよう》しありたる三銭の郵便切手を一枚宛剥ぎ取り竊取し、第三に、年月日某取次所より某局へ集配すべき小包郵便物の中より軽便懐中電燈一個を同じく竊取したと云ふ事実である。之が不服だと云ふのだな。」
「はい。」
「どうして不服だと云ふのだ。盗んだことがないと云ふのか。」
「切手を…………切手をはぎとつたことなどはありません。」
「切手はとらない。そんな事があるか。お前は一審に自白して居るぢやないか。」
「私、はぎとつたなどと云はなかつた…………」
「云はない。お前は云つてるぢやないか。」
「切手がはげて居ました…………其日は大雨がふりまして…………」
「切手がはげて居た。どうして。」
「其日は大雨がふりまして…………」
「そんなお天気の事なんぞはどうでもいい。」
「はい。あの雨がふりまして、手紙がぬれて…………」
「手紙
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