公判
平出修

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)隆《たか》く

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)所謂|狭長式《けふちやうしき》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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 これは某年某月某日、ある裁判所に起つた出来事である。

 正面には裁判長が二人の陪席とともに衣冠を正して控へて居た。向つて左には検事、右には書記、判事席のうしろの窓下には三人の試補が背広服で見習の為め傍聴をして居る。冬の日の曇つた光は窓を通して僅に法廷の半程にしか届かない。ずつと下の被告や弁護人の席はもう薄ぐらく、その後方に設けてある傍聴人席は殆どたそがれどきのやうに陰気臭い。編笠を脱がせられて、手錠をとかれて、看守の指図通り、極めて従順なる被告人は、書記席の下の桝の中へ、目白押しに二列になつて押しこめられた。数は六人である。弁護人は一人も出て居ない。
 裁判長は書記から廻された記録の二三を取つてその中から一つを選み出した。最初に審理すべき事案をそれと定めたからである。
「××××。」裁判長は書類と被告席とを
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