いだらう。も一度送らなければならないのか。送らなければ俺の心は通じない。送つたんだが盗まれたと云つた処で、伯母から見れば送らなかつたと同じである。俺が送る丈けの志はあつたんだと云ふことだけは、伯母も、その他の親戚も認めてくれるかもしれないが、認めて貰つたつて、やはり伯母の手には何もはいらない。俺は俺だけのことをしたのであるけれどそれが全く空《くう》に帰したとなると、俺の行為は結果を産《う》まない行為である。いや結果は産んだ。泥棒をして盗ませると云ふ結果だけは。そしてそれは俺が予期しない意外なものであるのだ。
「其日は大雨で…………。」とあいつが云つたと、判事は今日の公判廷に於ける郵便窃盗を思ひ起した。あの阿呆面《あはうづら》の男がよくも郵便物を盗んだものだ。人間の意思と云ふものはすべての動作の基礎を作るんだ。道徳、法律、其他人間の行為を批判する法則は、みんな此意思の発展の上に組み立てられてあるのだ。その重要な意思の伝達の機関として、国家自ら郵便制度を作つて、事業の経営を自らして居る。通信の安固と秘密。之がなくなつて誰か日本を文明と云はうぞ。あいつは文明を破壊する兇徒《しれもの》だ。
 
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